『ブラックカード』夏石番矢著(砂子屋書房)を読んだ
夏石番矢の俳句は個人的に大好きだ。
なんてったって、あのヤケクソ感が素晴らしい。
国境を背にして孔雀の聖家族
フラミンゴの群舞に太平洋のジャズ
空飛ぶ法王鯨の背中でトランジット
歌ってやれば太っちょ天使に縞模様
われらみなオケアノスの息にあり深夜
サハラが砂のおしろい飛ばすクリスマス
もちろんこの本は国外への旅行にかんする句集ということもあり特別ファンキーだけれど、まあだいたい他の句集も似たようなもんである(たぶん)。
この人は、他に『世界俳句への招待』という著書などもあるとおり、グローバルに展開している文化としての俳句をターゲットに活動している俳人だ。その分破戒僧的な雰囲気もあり、すごくおもしろい。
口語どころかカタカナをじゃんじゃん使ったりして、情緒も何もあったもんじゃないという句も多い。ああ、日本文化の古層を離れた俳句はこうして限りなく言葉遊びに近づくのだなあと思ったりもするけれど、そうした中にふと新たな情緒のような何ものかが芽生える瞬間もある。まことに発展途上の営みなのだなと思わされる。
けっこう中堅的な年齢になっているとは思うけど、同じ方向でこの人を越える俳人はなかなか見当たらないというのが現状なのだろう。